
近年、多くの企業が「人的資本経営」という言葉に注目し始めています。人材を単なるコストではなく、企業の成長を支える重要な資本と捉え直す動きが加速しているのです。本記事では、人的資本経営の定義や従来の人材戦略との違い、注目される背景、実践のための具体的な手順や成功のポイントまで、幅広く解説します。人的資本経営を推進することで得られるメリットや、情報開示の義務化など、分かりやすくまとめていますので、これから取り組みを始めたい企業の方や、より深く理解したい方にも役立つ内容です。
目次
人的資本経営とは 人的資本経営の定義 従来の人材戦略との違い 人的資本経営が注目される背景 労働力不足と人材価値の高まり ESG投資の拡大 デジタル化による働き方の変化 人材版伊藤レポートの重要性 人材版伊藤レポートとは 3P・5Fモデルの概要 情報開示の義務化と開示項目 情報開示義務化の流れ 開示が求められる19項目 人的資本経営のメリット 企業価値向上 従業員エンゲージメント向上 優秀な人材の獲得・定着 人的資本経営の実践手順 現状分析と課題把握 戦略策定と目標設定 施策実行と効果測定 人的資本経営を成功させるためのポイント 経営戦略との連動性 組織全体での推進体制構築 データ活用と継続的改善 戦略的リソース確保 バックオフィス業務におけるアウトソーシング活用 まとめここでは、人的資本経営の基本的な考え方や、従来の人材戦略との違いについて解説します。
人的資本経営とは、企業が従業員一人ひとりの知識やスキル、経験、価値観などを「資本」として捉え、その成長や活用を経営の中心に据える考え方です。従来の経営では、人材はコストや労働力として扱われることが多かったのですが、人的資本経営では人材こそが企業価値の源泉であり、持続的な成長や競争力強化のために不可欠な存在と位置付けられます。
この考え方は、単に人事部門だけが担うものではありません。経営層から現場のマネージャー、従業員まで、組織全体で人材の成長や活躍を支援し、企業のビジョンや戦略と連動させていくことが求められます。人的資本経営を実現するためには、採用や育成、評価、配置、働き方改革など、あらゆる人事施策を一貫した方針のもとで進めていくことが重要です。
また、人的資本経営は、従業員の多様性やウェルビーイング(心身の健康や幸福感)にも着目します。多様な人材がそれぞれの強みを発揮し、安心して働ける環境を整えることが、企業全体の生産性や創造性を高める鍵となるのです。
人的資本経営と従来の人材戦略との最大の違いは、「人材をどのように捉えるか」という視点にあります。従来の人材戦略では、必要な人数を確保し、業務を効率的に回すことが主な目的でした。人材は「コスト」として管理され、採用や育成も短期的な視点で行われることが多かったのです。
一方、人的資本経営では、人材を「資本」として長期的に育て、企業価値の向上に直結させることを目指します。従業員の能力開発やキャリア形成、働きがいの向上など、個人の成長と企業の成長を両立させる視点が重視されます。これにより、単なる人員管理から一歩進んだ、戦略的な人材マネジメントが実現できるのです。
また、人的資本経営では、データや指標を活用した客観的な人材評価や、経営戦略との連動性も重視されます。従来の人材戦略が「人事部門の仕事」とされがちだったのに対し、人的資本経営は経営全体の課題として捉えられ、全社的な取り組みが求められる点も大きな違いです。
ここでは、なぜ今、人的資本経営がこれほどまでに注目されているのか、その背景となる社会的・経済的な要因について解説します。
日本をはじめとする先進国では、少子高齢化や人口減少により、深刻な労働力不足が続いています。企業が持続的に成長していくためには、限られた人材をいかに確保し、最大限に活用するかが大きな課題となっています。こうした状況の中で、一人ひとりの従業員が持つ知識やスキル、経験の価値がこれまで以上に高まっています。
また、働き手の価値観も大きく変化しています。単なる給与や待遇だけでなく、自己成長や働きがい、社会貢献などを重視する人が増えてきました。企業が優秀な人材を引きつけ、定着させるためには、従業員の多様なニーズに応え、成長や活躍の機会を提供することが不可欠です。人的資本経営は、こうした時代の変化に対応するための新しい経営のあり方として注目されています。
近年、ESG投資が世界的に拡大しています。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、企業の持続可能性や社会的責任を重視する投資の考え方です。特に「社会(S)」の分野では、従業員の働き方やダイバーシティ(多様性)、人権の尊重などが重要な評価基準となっています。
投資家や株主は、企業がどのように人的資本を活用し、従業員の成長や働きやすさを実現しているかを重視するようになりました。そのため、人的資本経営に積極的に取り組む企業は、資本市場からの評価が高まりやすくなっています。逆に、人的資本への投資を怠る企業は、投資家からの信頼を失い、資金調達や企業価値の面で不利になる可能性もあります。
デジタル技術の進化は、働き方や組織運営のあり方にも大きな変化をもたらしています。リモートワークやオンライン会議、クラウドサービスの普及により、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が広がっています。これにより、従業員のワークライフバランスや生産性向上が期待される一方で、コミュニケーションやマネジメントの難しさも指摘されています。
こうした変化に対応するためには、従業員一人ひとりの自律性や創造性を引き出し、多様な働き方を支援する仕組みが求められます。人的資本経営は、デジタル時代にふさわしい人材マネジメントの在り方として、企業の競争力強化に直結する重要なテーマとなっています。
ここでは、人的資本経営の推進において重要な指針となる「人材版伊藤レポート」について、その概要や注目すべきモデルを解説します。
人材版伊藤レポートとは、経済産業省が中心となり、企業の人的資本経営を推進するためにまとめられた提言書です。正式名称は「持続的な企業価値向上のための人材戦略に関する検討会報告書」であり、2020年に発表されました。このレポートは、企業が人的資本をどのように捉え、経営戦略と連動させていくべきかを具体的に示しています。
人材版伊藤レポートの特徴は、単なる理論や理念にとどまらず、実際の企業活動に落とし込める実践的な指針を示している点です。経営層や人事部門だけでなく、現場のマネージャーや従業員も含めた全社的な取り組みの必要性が強調されています。また、人的資本経営の実践にあたり、どのような指標や情報開示が求められるかについても具体的に言及されています。
このレポートは、多くの企業や投資家、行政機関からも注目されており、人的資本経営を進める上での「道しるべ」として活用されています。
人材版伊藤レポートの中で特に重要なのが、「3P・5Fモデル」と呼ばれるフレームワークです。これは、人的資本経営を戦略的に進めるための考え方を整理したものです。
「3P」とは、Purpose(パーパス:企業の存在意義)、Process(プロセス:人材戦略の実行プロセス)、Performance(パフォーマンス:成果)の3つの要素を指します。まず、企業がどのような目的や価値観を持っているのかを明確にし、その上で人材戦略を設計し、最終的な成果につなげていくという流れです。
「5F」は、Five Factors(5つの要素)の略で、以下の観点から人的資本経営を評価・推進します。具体的には、動的な人材ポートフォリオ、知・経験のダイバーシティ&インクルージョン、リスキル・学び直し、エンゲージメント&働きがい、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方が挙げられます。
この3P・5Fモデルを活用することで、企業は自社の人的資本経営の現状や課題を客観的に把握し、戦略的な施策を立案・実行しやすくなります。人的資本経営を本格的に進める際の指針として、多くの企業で導入が進んでいます。
ここでは、人的資本経営に関する情報開示の義務化の流れや、具体的に開示が求められる項目について解説します。
近年、企業に対して人的資本に関する情報開示を求める動きが急速に広がっています。特に2023年以降、上場企業を中心に人的資本の情報開示が事実上義務化されるようになりました。これは、投資家や株主が企業の持続可能性や成長性を評価する際に、人的資本の充実度が重要な判断材料となっているためです。
日本でも、金融庁や経済産業省が中心となり、人的資本に関する情報開示のガイドラインを策定しています。これにより、企業は自社の人材戦略やダイバーシティ、従業員の育成状況などについて、定量的・定性的な情報を積極的に開示することが求められるようになりました。
情報開示の義務化は、単なる「報告のための報告」ではありません。企業が自らの人的資本経営を見直し、課題を明確にし、改善に取り組むきっかけとなる重要な動きです。透明性の高い情報開示は、投資家や社会からの信頼を高めるだけでなく、従業員のエンゲージメント向上にもつながります。
人的資本経営に関する情報開示では、具体的に19項目の開示が求められています。これらは、企業がどのように人材を活用し、成長させているかを多角的に評価するための基準です。
主な項目としては、従業員の属性(年齢、性別、雇用形態など)、採用や離職の状況、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組み、教育・研修の実施状況、従業員エンゲージメント、健康経営やウェルビーイング、労働時間やワークライフバランス、ハラスメント防止策などが含まれます。
また、管理職や役員における女性比率や外国人比率、障がい者雇用の状況など、多様性に関する指標も重視されています。さらに、リスキル(学び直し)やキャリア形成支援、従業員の安全衛生、報酬や評価制度の透明性なども開示項目に含まれています。
これらの情報を正確かつ分かりやすく開示することで、企業は自社の人的資本経営の現状や強み、課題を社内外に示すことができます。情報開示は、単なる義務ではなく、企業価値向上のための重要な経営戦略の一部と捉えることが大切です。
ここでは、人的資本経営を実践することで企業が得られる主なメリットについて解説します。
人的資本経営を推進する最大のメリットは、企業価値の向上につながることです。従業員一人ひとりの能力や意欲を最大限に引き出し、組織全体の生産性や創造性を高めることで、持続的な成長が実現できます。人的資本への投資は、短期的なコストではなく、長期的なリターンを生み出す「資本」として捉えられるべきです。
また、人的資本経営に積極的な企業は、投資家や株主からの評価も高まりやすくなります。それは、ESG投資の拡大により、人的資本の充実度が企業価値の重要な指標となっているためです。人的資本経営を通じて、企業のブランド力や社会的信頼も向上し、競争優位性を確立しやすくなります。
人的資本経営は、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や愛着)の向上にも大きく寄与します。企業が従業員の成長や働きがいを重視し、多様なキャリアパスや学びの機会を提供することで、従業員は自分の存在価値を実感しやすくなります。
エンゲージメントが高まると、従業員のモチベーションや生産性が向上し、離職率の低下や組織の一体感強化にもつながります。従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業にとっても大きなメリットとなります。
人的資本経営を実践することで、優秀な人材の獲得や定着がしやすくなります。現代の働き手は、給与や待遇だけでなく、企業のビジョンや価値観、成長機会、働きやすさなどを重視して職場を選ぶ傾向が強まっています。
人的資本経営を通じて、従業員の多様なニーズに応え、魅力的な職場環境を整えることで、他社との差別化が図れます。また、既存の従業員も長く働き続けたいと感じるようになり、離職率の低下や組織の安定にもつながります。人材の流動性が高まる現代において、人的資本経営は企業の競争力を維持・強化するために欠かせない取り組みです。
ここでは、人的資本経営を実際に進めるための基本的な手順について、分かりやすく解説します。
人的資本経営を始めるにあたって、まず必要なのは自社の現状を正確に把握することです。従業員の属性やスキル、エンゲージメントの状況、離職率や採用状況、ダイバーシティの進捗など、さまざまなデータを収集・分析します。
この段階では、単なる数値だけでなく、従業員の声や現場の課題感など、定性的な情報も重要です。現状分析を通じて、自社の強みや弱み、今後取り組むべき課題を明確にしましょう。課題が明確になれば、人的資本経営の方向性や優先順位も見えてきます。
現状分析をもとに、人的資本経営の戦略を策定します。自社の経営ビジョンや事業戦略と連動させながら、どのような人材像を目指すのか、どの分野に重点的に投資するのかを明確にします。
また、具体的な目標設定も重要です。たとえば、女性管理職比率の向上や、従業員エンゲージメントスコアの改善、リスキル研修の受講率向上など、定量的な目標を設定することで、進捗管理や効果測定がしやすくなります。目標は現実的かつチャレンジングなものを設定し、組織全体で共有することが大切です。
戦略と目標が定まったら、具体的な施策を実行に移します。採用や育成、評価制度の見直し、ダイバーシティ推進、働き方改革など、さまざまな施策を計画的に進めていきます。
施策を実行する際は、現場の声を反映させたり、経営層と現場の連携を強化したりすることが成功の鍵となります。また、施策の効果を定期的に測定し、必要に応じて改善を重ねていくことも重要です。データや指標を活用し、PDCAサイクルを回すことで、人的資本経営の質を高めていきましょう。
ここでは、人的資本経営を実践し、成果につなげるために押さえておきたい重要なポイントを解説します。
人的資本経営を成功させるためには、経営戦略との連動性が不可欠です。人材戦略が経営ビジョンや事業計画と切り離されていては、持続的な成長や競争力強化にはつながりません。経営層が人的資本の重要性を理解し、経営戦略の一部として人材育成や多様性推進に取り組む姿勢が求められます。
また、経営層自らが人的資本経営の旗振り役となり、全社的な意識改革を進めることも重要です。経営戦略と人材戦略が一体となることで、組織全体の方向性が明確になり、従業員の納得感やエンゲージメントも高まります。
人的資本経営は、人事部門だけの取り組みではありません。経営層、現場のマネージャー、従業員一人ひとりが主体的に関わることが求められます。そのためには、組織全体で推進体制を構築し、役割分担や情報共有の仕組みを整えることが大切です。
たとえば、プロジェクトチームを設置したり、各部門のリーダーを巻き込んだりすることで、現場の課題やニーズを的確に把握しやすくなります。また、定期的なミーティングやワークショップを通じて、人的資本経営の意義や目標を全社で共有することも効果的です。
人的資本経営を効果的に進めるためには、データの活用が欠かせません。従業員の属性やスキル、エンゲージメント、離職率、研修受講状況など、さまざまなデータを収集・分析し、客観的な判断材料とすることが重要です。
データに基づいて現状を把握し、課題を特定し、施策の効果を測定することで、継続的な改善が可能となります。また、データを活用することで、経営層や現場の納得感も高まり、組織全体の一体感が生まれやすくなります。データ活用のためには、ITツールやシステムの導入も検討すると良いでしょう。
人的資本経営を推進するためには、必要なリソースを戦略的に確保することが重要です。人材育成やダイバーシティ推進、働き方改革などには、一定の予算や人員、時間が必要となります。経営層が人的資本への投資を「コスト」ではなく「資本」として捉え、積極的にリソースを配分する姿勢が求められます。
また、外部の専門家やコンサルタントの活用も有効です。自社だけでは解決が難しい課題や、最新の知見が必要な分野については、外部の力を借りることで、より効果的な施策を実現しやすくなります。
人的資本経営を推進する上で、バックオフィス業務の効率化も重要なポイントです。総務や人事、経理などの間接部門の業務をアウトソーシングすることで、コア業務に集中できる環境を整えることができます。これにより、限られたリソースを戦略的な人材育成や働き方改革に投下しやすくなります。
株式会社ゼロインでは、常駐やスポット、オンラインなど多様な形態で総務、人事、経理など幅広いバックオフィス業務をサポートしています。人的資本経営を目指すにあたって、業務の見直しや体制構築に課題を感じている場合は、ゼロインのアウトソーシングサービス活用も検討してみてはいかがでしょうか。
人的資本経営は、企業の持続的な成長や競争力強化に欠かせない重要な経営手法です。経営戦略と連動した人材戦略の推進や、情報開示の充実、バックオフィス業務の効率化など、全社的な取り組みが求められます。人的資本経営の実践を通じて、企業価値の向上と従業員の成長を同時に実現していきましょう。






