ダイバーシティのある総務が、組織を強くする。戦略的ダイバーシティの実現方法とは(2/2)

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん(右)と株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希(左)

総務として「組織」をどう強くできるのか?

外資系企業に学ぶ、人材の流動化による業務品質の向上とは

靜 金さんは何社もの外資系企業で総務経験をされています。外資系企業の総務と日系企業の総務に、どのような違いを感じていますか。 

金さん 私が働いていた外資系金融企業では、株式部、債券部、投資銀行部、総務部、経理部といったすべての部門で、人材が業界内の転職を繰り返していました。たとえば金融A社で成功した人がいたら、金融B社はその人を採用し、A社で培った能力を買うわけです。同じ金融業界なので即戦力ですし、A社のことを知っているので重宝されます。

特に上位企業からの採用は、斜め上のレベルのノウハウや仕組みを自社に取り入れられるので、相互作用で業界全体が進化していきます。

文化の観点では、各自の専門領域が明確になっており、議論をして意見が食い違っても、「あなたがこの領域の専門家です」といったリスペクトが前提にあります。その相互リスペクトによる心理的安全性が担保されている状態なので、何でも発言し、健全に言い合うことができます。私は、自身の経験から、ジョブに対する相互リスペクトが心理的安全性を演出する最大の武器だと思っています。

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん

金さん  一方で、日系企業には村社会にも似た文化が感じられます。流動化を生みだそうとしても、受け入れ側が拒絶反応を示すことがあり、進化が進みにくいのです。

本来的には、外資系と同じように人が流動化し、それに伴って仕事もレベルアップしていくことが望ましいのですが、日系企業で総務を外部からヘッドハントすると、社内から「お手並み拝見」といった目で見られ、組織の仲間として受け入れてもらえないことも多いようです。すると、どれだけ優秀な人でも仕事がやりづらいので短期間で辞めてしまうのです。つまり前述の「相互リスペクト」が無い状態です。

目線が社内競争に行きがちなことも特徴かもしれません。本来は職の専門性で戦い、お互いの職に対してリスペクトできると良いのですが、論が立つ人が幅を利かせがちです。役職者による鶴の一声で決まることも多く、議論が活発化しない一因にもなります。

ただ、近年では日本でも職の専門性を明確にする方向性に向かっています。総務の仕事は、社内からリスペクトと感謝の気持ちをもらうことで、よりやりやすく変わっていくと思います。

目指すべきは「ダイバーシティのある組織」

靜 外資系企業では、人材の流動化が会社や総務の進化を創りだしている、ということですね。総務はどのような組織を目指せば良いのでしょうか。

金さん 目指したいのはダイバーシティのある組織づくりです。さまざまな業界の総務経験者が組織に混ざり合うことで、組織の対応領域が広がりますし、各自が持つ失敗の経験もノウハウとして蓄積されます。

また、他社の総務を知っている人は、会社ごとに異なる文化があることを認識しているので、自社の文化にフィットさせた総務サービスをいかに提供するか、考えながら仕事に取り組める傾向にあります。

しかし、採用だけでダイバーシティを実現するのは、採用難もあり難しい実情もあります。そこで、専門領域のアウトソーサーに一緒に伴走してもらうことも一つの手段だと思います。

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん

組織を強くするアウトソーシング活用

自立実行型のアウトソーサーの活用

靜 アウトソーシングを効果的に活用するために、金さんはどのような点がポイントになると考えていますか。

金さん アウトソーサーへの発注時にSLA(Service Level Agreement)を締結しますが、細かく決め過ぎる運用は避けた方が望ましいです。総務の領域では2000年初頭にアメリカからSLAやKPIの考え方が入ってきましたが、あまりに細かく定義をしたことでかえって失敗してしまった時代がありました。

アウトソーサーへの委託は基本的には信頼関係で成り立つものです。たとえばオフィス清掃のSLAで何を決めるかと言うと、極論「綺麗にしてください」だけで済みます。この綺麗の基準がアウトソーサーとすり合えば良いので、「綺麗な状態」を「ガラスに指紋がない状態」「ごみ箱は半分以下の状態を維持」など、指標をある程度具体的に伝える必要はありますが、大体10個程度あれば、「オフィスをこのような状態に保ちたい」という品質について合意できるはずです。

品質で合意できていれば、1日の掃除回数や清掃箇所を事細かく取り決め、指示を出す必要はありません。冷蔵庫の中を見てアウトソーサーが「品質に対して汚い」と判断したのであれば、清掃ルールを新たに定めて対応してくれるようになります。

靜 アウトソーサーにある程度幅を持たせた権限移譲は、非常に大事だと感じます。総務を取り巻く環境は変化が多く、細かく指示をしていたら変化に対応し切れないことも多いと思いますし、新たな提案を出しづらくなります。柔軟に変化・発展させていくことをどう意識づけられるかが、アウトソーサー活用の重要なポイントなのでしょう。

ゼロインの場合は品質にくわえて、お客様企業の目指す方向性、総務・管理部門が向かう方向性、そして組織内のメンバーミッションや評価も含めて、お客様と認識を合わせることを大事にしています。目指す方向性が明確になることで、「なぜ、何のためにこの業務を行うのか」が整理され、お客様の意図を汲み取りながらゼロイン側で判断できるようになります。

金さん 海外ではアウトソーシングを結婚によく例えるのですが、アウトソーサーはパートナーです。結婚するパートナーと「家事を何時にやってほしい」といった仕様書は書かないですよね。「お互いに上手くやっていこう」というのが原則で、そこまで割り切って任せられると、アウトソーサーのクリエイティビティがどんどん発揮され、発注者は戦略的なことに注力できる状態になります。

ゼロインさんのウェブサイトでBASFさんの事例記事を拝見したのですが、お客様が不動産系の戦略的な業務に集中し、他の業務はゼロインさんが担っているのは、良いモデルだと思います。

靜 お客様は総務部長のみで、ゼロインスタッフが7チーム30名で常駐しながらプロジェクトマネジメントを含めたオペレーションをすべて完結しているお客様もいます。このようにスタッフの人数が増えると、業務だけでなく人のマネジメントも重要になります。スタッフの成長やリスキリングなど、育成部分もアウトソーサーである私たちに期待されています。

金さん アウトソーサーのスタッフは固定ではなく、適宜入れ替えることで幅広い知見を組織にインストールし、アップデートするのが双方にとって良いと思います。「自社のことを分かっている特定のメンバーにずっと居てほしい」と要望したくなる気持ちはわかりますが、それではダイバーシティや新たな可能性を阻害することになり、多様な企業の総務経験を持っているアウトソーシング企業を活用するメリットを受けにくくなります。

靜 アウトソーサー視点でも、他社でのさまざまなノウハウやアイデア、その掛け合わせを当たり前のようにお客様に還元していく文化を持つことで、生産性の向上や合理化が促進され、イノベーションにつながっていくことを実感しています。

「組織」のカルチャー変革を行うゼロイン

金さん ゼロインさんは、お客様のカルチャー改革のサポートはされているのですか。

靜 ゼロインにはインナーブランディングを専門に行うコミュニケーションデザイン事業があるので、連携しながらお客様のカルチャー変革をサポートしています。

あるお客様では、コミュニケーションデザイン事業が10周年、15周年の節目にお客様の周年事業をプロデュースしつつ、バックオフィスデザイン事業がお客様の経営方針にもとづいた日常のオペレーション運営を行っています。

周年といった非日常のタイミングだけではなく、日常シーンでゼロインが内側からサポートできるので、「経営と現場」「未来と現在」の両方を行き来させながら、カルチャー変革に取り組めています。

周年事業のプロデュース以外にも、会社のパーパス策定、社長メッセージや年頭所感、キックオフミーティングの設計、社内報や映像を活用し、インナーブランディングを行っています。

株式会社Hite & Co.代表取締役社長 金英範さん(右)と株式会社ゼロイン バックオフィスデザイン部 部門長 靜昌希(左)

金さん カルチャー変革では、社内コミュニケーションがつきものです。社員とどのタイミングで、どのようなコミュニケーションを取るのか、社内外発信をどうするのかは、総務、広報、人事などのバックオフィスが、コミュニケーションという軸でつながり、同じメッセージで伝えなければいけないですよね。

広報部は外部発信が得意ですが、内部向けの発信は得意ではありません。一方で総務は、発信の術を知りません。停電のお知らせくらいしかやったことがない、という話も聞きますが、それはお知らせであってコミュニケーションではないですよね。

靜 総務は、前述の、社外とのお付き合いのプロである必要があるのと同時に、社内コミュニケーションの専門家であることが求められます。いわば総務は、経営と現場、そして社内と社外を繋ぐインテグレーターとなる存在です。働く環境を整えるだけでなく、「組織全体のコミュニケーションがうまくいっているか?」「企業が目指す未来と組織が、同じ方向を向いているか?」「社員がイキイキと働けているか?」ということを考えながら、施策に落としていくことが総務に求められていると思います。

戦略策定を自社内で行っていくことも良いですが、「ダイバーシティと知見を兼ね備えたアウトソーサーに相談してみる」という選択肢を持っておくと良いと思います。外部リソースを活用することで、「戦略策定、実行、改善」というサイクルを、素早く回していくことができ、組織としてチャレンジできることが増えていくからです。

「総務の存在が、組織全体を動かす」ということを信じ、一緒に、日本中の総務が輝いている未来を目指していきたいと思います。

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